13871769_1231790543527865_1923465231_n

為末大さんとのこと


為末大さんのご実家に、泊まらせていただいたことがある。

「自転車で西日本を一周するんだけど、知り合いで泊まらせてくれそうな人いない?」と聞いたとき、兄は「広島に為末の実家があるから、聞いてやろうか」と言った。兄と為末さんは、大学陸上部の同級生だった。

相手は世界陸上の銅メダリスト。まさか、見ず知らずのぼくなんかを泊めてくれるはずがないだろう、と思ったが、

「為末、泊まらせてくれるってよ」

と、まるで『桐島、部活やめるってよ』みたいなノリで言った。

「だけど、本人は不在らしい」

「ますますおかしいだろ(笑)」

当時、為末さんはまだ現役で、アメリカのサンディエゴでトレーニングをしていた。なので、広島のご実家では、本人以外のご家族にお世話になった。

「今夜はここで寝てね」

と布団が敷かれたのは、為末大さんの部屋だった。部屋の360度に、それまでに獲得したトロフィーとメダルと表彰状が飾られていた。ぼくは興奮した。

家を出るとき、お母さんがおにぎりを作って、渡してくれた。それから、

「これ、大のなんだけど、もう着ないだろうから」

と、2着のユニフォームをくださった。毎日同じ服で旅をしていたぼくにとって、最高のプレゼントだった。

これを着て走ったときは、相当速くなった気がした。

ご家族には、本当に親切にしていただき、今でも温かい思い出として残っている。

その翌年も、為末さんとメールでやり取りをした。ぼくが「自転車で西ヨーロッパを一周するために、スポンサーを集めています」と言って企画書を送ると、こんな返事があった。

「こういうことを俺も昔は考えてて、でも実現できなかったから応援させてもらいます。頑張ってね。

どんな方法でスポンサーになればいいのか、教えてください。

いろいろとやりようはありますので。

で、周りにもいろいろ人がいるから、話を振ってみるよ」

すごくありがたかった。ナイキの担当者の方にも聞いてくださった。

無事に旅が実現し、今度は講演会をすることになり、そのお知らせをまた為末さんに送った。

「僕はちょっと仕事で行けないんですけど、facebookでアップしておきました。

がんばってね、応援してます」

13872382_1231793683527551_1263828405_n


様々なやり取りの中でも、とくに印象に残っているのは、上で紹介した、「こういうことを俺も昔は考えてて」という話だ。

正直なところ、「ハードル一筋の人間」というイメージがあったから、その発言が、当時のぼくにとっては意外に思えた。

「こういうこと」というのが、自転車旅のことを指すのか、スポンサーを集めて何かに取り組むことを指すのか、わからないけれど、いずれにせよ、ハードル以外の何かに挑戦したかったということだ。

『限界の正体 自分の見えない檻から抜け出す法』

という為末さんの最新刊が、本日発売された。

71coXou5o6L

「人間にとって、本当の限界はどこにあるのか」というのが本書のテーマ。

自転車旅も、スポンサー集めも、やる前は、「そんなの無理だ」と周囲から言われた。

「自転車で九州までなんか行けるわけがない」

「無名の大学生にスポンサーがつくわけがない」

いろいろ言われたけど、やってみたら、そんなことなかった。自分を信じて良かった。

どれだけ時間がかかったとしても、車や電車や飛行機を使わずとも、遠く離れた場所へ、自分の力で行ける。自転車旅をしていると、「自分に限界はない」と強く感じる。

スポンサー集めだってそうだ。失敗するかどうかは、やってみないとわからない。やる前から無理だと諦めていたら、何も生まれない。

だからこそ、「本当の限界はどこにあるのか」と模索し続けた為末さんにとって、自転車旅や、スポンサー集めのような行為に、多少なりとも憧れがあったのかもしれない。

そんなことを思って、今ならあのときの言葉を、違和感なく受け止められる気がした。

sponsored link


コメントを残す